ここ数年のコロナ禍における健康志向への高まりにより、よく耳にするようになったグルテンフリーや腸内環境の改善。
グルテンを含む小麦粉を食生活から排除することで、腸内環境の改善や心身の健康に繋がると考えられており、グルテンフリーやグルテンレスな生活を実践する人が増えています。ただ、グルテンにはタバコに含まれるニコチンやカフェインなどと同じくらいの依存性があり、現代の多様な食生活において欠かせないグルテンを一切排除した食生活をするのはなかなか難しいと言われています。
そんな中、注目されているのが米粉の存在です。小麦粉に似たもちもちとした食感で小麦粉の置き換え品として活躍しています。本記事は、小麦粉と米粉の基礎的な違いと健康面以外においても米粉が注目される理由について改めて解説し、まとめたものです。
小麦粉と米粉の基礎知識
小麦粉とは
イネ科の小麦属に属する1年草の小麦を粉状にし、ふるい分けによって外皮、胚芽、粗い部分を取り除いた製粉のことです。
小麦の栽培は1万5千年前から始まり、人類最古の栽培植物だといわれています。現在のように小麦粉にして食べられるようになったのは、およそ5千年ほど前。日本では奈良時代に石臼に小麦を入れて棒で突いて粉にするという手間のかかる方法で製粉されており、普及し始めたのは回転式のひき臼が行き渡った江戸時代です。
現代では薄力粉・中力粉・強力粉の3種類が用途によって、パンや焼き菓子、麺類など多くの料理に使われており、世界の主食として必要不可欠な存在です。
米粉とは
イネ科稲属に属するお米を細かく砕き、粉状に製粉したものです。
日本ではお米の生産が2000年前から2300年前に広がり、弥生時代に全国に普及したと考えられています。米粉として使われるようになったのは奈良時代、遣唐使によって、小麦粉や米粉で型を作り、油で揚げた煎餅などの唐菓子の文化が伝えられたことが始まりです。
今ではパン用米粉やお菓子用米粉、上新粉や白玉粉など様々な種類があり、米粉は古くから和菓子や煎餅などにも使われている日本のお菓子作りには欠かせない素材になっています。
小麦粉と米粉の主な3つの違い
見た目はほとんど変わらない小麦粉と米粉ですが、成分に主な3つの違いがあります。
グルテンの含有
まず、小麦粉と米粉の大きな違いはグルテンが含まれているかどうかにあります。グルテンは小麦に含まれるグルテニンとグリアジンという2種類のタンパク質が水を加えこねることで絡み合ってできたもので、粘りと弾力が特徴の物質です。グルテンによって小麦粉特有のモチモチ感が生まれ、その食感や満腹感に魅了されている方も多いです。
しかし、昨今では、グルテンがもたらす身体への悪影響も研究されており、健康のためにグルテンを摂らないグルテンフリーという言葉もよく耳にするようになりました。小麦粉にはグルテンが含まれていますが、米粉にはグルテンは含まれておらず、ヘルシーで身体に優しいため、腸内環境の改善にも役立ち、米粉が小麦粉の代替品として改めて注目されています。
油の吸収率
油を利用する際、米粉より小麦粉の方が、1.5倍以上の油を吸収するということも分かっています。米粉の方が粒子が細かく粘度が低いため、小麦粉に比べ、油の吸収率が少なくなるとのことです。例えば、天ぷらなどの衣に米粉を使用しても、厚くならず薄い衣になるため、油を吸収する量が少なく、サクサクとした軽い食感で小麦粉よりもヘルシーな仕上がりになります。
また、小麦粉と米粉の粉の状態でのカロリーを比較すると、小麦粉の方が低カロリーですが、調理した場合は米粉を使用した方が油は少なく、水分を多く含むため、米粉の方がカロリーが低くなります。
栄養素
小麦粉も米粉も主な成分は炭水化物であるデンプンですが、炭水化物やタンパク質で必須アミノ酸とタンパク質がバランスよく含まれているかを表す指標「アミノ酸スコア」では、米粉が65に対し、小麦粉は38~44と、米粉のほうがより多くの栄養素が含まれています。 また、米粉の素材はお米なので、アミノ酸以外にもビタミンB1やビタミンEなども豊富に含まれており、非常に栄養価の高い食材として活躍が期待されています。
小麦粉の生産と遺伝子組み換え問題
実は、小麦粉の約9割が輸入品?!
日本人の食生活において必要不可欠な小麦粉ですが、日本における小麦粉の消費量のうち、約9割がアメリカやカナダ、オーストラリアなどの海外からの輸入によって賄われています。
日本の高温多湿の環境は、小麦が苦手とする生育環境なので、国内での小麦粉の生産は難しく、小麦は連作を嫌うため、二毛作ができるような広大な農地が必要になり、国内生産できる量が限られているのが現状です。
物価や世界情勢に影響を受けやすい輸入小麦は、日本の食事に欠かせない主食のため、安定供給を維持するために、政府が自ら買い付け、製粉業者に売り渡す仕組みをとっています。近年の新型コロナの拡大やウクライナ情勢などの影響も受け、農林水産省は製粉会社などに売り渡す輸入小麦の政府売渡価格を、2022年4月から約2割ほど引き上げました。各製粉会社は政府の売り渡し価格の引き上げに応じて、販売価格を約2%から約7%の値上げをしたのが記憶に新しく、家計にも小麦粉の値上がりは大きな影響を与えています。
遺伝子組み換えによる影響
日本では遺伝子組み換え小麦の栽培と流通は認められていませんが、2022年、小麦の生産量・世界第4位のアルゼンチンにて遺伝子組み換え小麦の栽培が世界で初めて承認されました。遺伝子組み換えをしたものを栽培することによって、従来より、水の管理がしやすく干ばつに強い作物を作ることができます。また、収穫量が2倍になるため、新しい市場の開拓が進むと考えられており、近い将来、遺伝子組み換えによる小麦粉の割合が増え、遺伝子組み換え小麦粉を輸入する日がやってくるかもしれません。
ただ、生産しやすくなる一方で、遺伝子組み換え作物は、健康への安全性や、環境への影響が懸念されています。遺伝子組み換え作物は主に害虫対策や除草剤耐性を目的としていますが、歳月を経るほど、害虫や雑草は耐性を持つようになり、殺虫剤や除草剤をより強いものに、また量を増やしていく必要が出てきます。そのため対象以外の植物にも悪影響を及ぼし、環境や生態系を破壊することに繋がる可能性があります。
また、日本では厚生労働省によって、大豆やトウモロコシなどの遺伝子組み換え食物の安全性が謳われていますが、アレルギー誘発の可能性など、今後、詳細の研究や長期的なデータが必要と考える研究者が多いのが現状です。 世界各国においても、遺伝子組み換え作物を食べることにより、免疫疾患や不妊など様々な健康被害が出るという調査結果が明らかになりつつあり、今後、遺伝子組み換え作物に頼ることへの怖さもあります。
参考:独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)/アルゼンチン政府が遺伝子組換え小麦の国内販売を許可、国内から批判の声も
輸入大国日本の食料自給率
小麦粉をはじめ、日本で消費される多くの食品は輸入に依存していることから分かる通り、農林水産省における国内食料自給率は38%(2021年)と、食料自給率トップの200%のカナダや、100%のオーストラリアやアメリカ、フランスなどの他の先進国に比べて、日本は最低水準をマークしています。輸入大国の日本は、世界的な食糧危機が起こった場合、多大な影響を受けることが考えられます。
米粉で食料自給率と環境問題の改善
国内生産100%の米粉
前述のとおり、食料自給率の低い日本ですが、米粉は、ほぼ100%を国内で生産しており、健康のためだけではなく、日本の食料自給率の改善においてもとても重要な存在です。
農林水産省では食料自給率をアップするためにも、お米の消費拡大の取り組みの一つとして、米粉の普及を進めています。米粉用米の需要量は、平成24年度以降、2〜3万トン程度で推移しており、平成30年からは、米粉の特徴を活かし、グルテンを含まない特性を発信する「ノングルテン米粉認証制度」や「米粉の用途別基準」の運用を開始し、米粉の需要量が拡大しています。 また、利用拡大に向け、小麦粉よりコストがかかる米粉の製粉コストを低減するための取り組み・新しい米粉の開発など、様々なアクションを起こしています。
今の段階では、米粉より低コストで生産でき、グルテンが含まれているが故に扱いやすい小麦粉の方が普及していますが、こういったアクションや健康志向により米粉が台頭してくる日も近いかもしれません。
米粉の普及が日本の未来を守る
そして、米粉の需要が増えれば、国内の農業が守られ、食料安定供給の確保にも繋がります。加えて、お米の生産に無くてはならない水田は一時的に雨水を貯留するという機能もあるため、お米の生産で水田を維持することは洪水や土砂崩れを防ぐといった環境や災害面での安心・安全にも繋がると考えられています。お米の消費が減少すると、お米を作る農家も減ってしまい、水田を守っていくことが難しくなってしまうので、国内生産のお米・米粉を消費することで日本の未来や日本の農業のために少しでも力になることがとても大切です。
正しく米粉を使い、身体にも環境にも優しい食生活を。
小麦粉から米粉への置き換えは、グルテンフリーや腸内環境の改善など、健康面でのメリットも大きいですが、小麦粉と米粉の成分の違いだけではなく、生産過程の違いについて正しく理解し、利用することで、食料自給率や環境問題の改善にも繋げることができます。
米粉を正しく利用することで、身体にも、環境にも優しい食生活を意識してみませんか?
コメント