知っておきたい「お米」の基礎知識|その歴史や文化に触れる

私たちは、生まれたころから今まで当たり前のように、お米を食べて育ってきました。平成25年には「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことが話題に。日本人が長年にわたり築いてきた、食の「文化」が世界的に認められました。 
和食は “一汁三菜” が基本形。おかずや汁物の中心には常に「ご飯」があります。 

「そもそもお米のはじまりはいつから?」 
「お米にまつわる日本の文化とは?」 
「ご飯を食べるとどんな良いことがあるの?」

本記事は、お米についての基本的な知識や情報をさまざまな角度からご紹介しています。昔の歴史や文化を振り返ったり、お米を取り巻く今の環境、私たちの身近な食生活のお話まで。あなたが意外と知らない事実もあるかもしれません。 お米の価値について再認識するきっかけとなれば幸いです。

お米が日本に伝わり主食となるまで

お米が主食になる背景には長い歴史があるのです。さかのぼってみましょう。 

米作りは弥生時代から始まる

稲作が日本に伝来したのは2000年以上も前のことです。稲は、もとから日本列島に自生していたわけではないのです。原生地は中国大陸だと考えられていて、そこでは7千年前から水田稲作が行われていました。稲は高温多湿な日本の気候に適した作物であったため、数百年の間にたちまち全国に広がりました。 

主食となったのはいつから?

実は、一般の民衆が米飯を食べることができるようになったのは江戸時代からだといわれています。そして、誰でも白いご飯をお腹いっぱい食べられるようになったのは第二次世界大戦後の1945年頃(今から77年前)でした。
稲作が日本に伝来した当初の日本社会では、お米が主食ではありませんでした。なぜなら日本は稲作に適した気候でしたが、国土の7割が森林であり平地が少なかったため、一般の民衆たちが食べるだけのお米は収穫できなかったのです。よって、農民階級はキビや大麦を食べ、特権階級だけが米を食すことができました。 

日本の経済と人々の暮らしを支え続けたお米

近代国家が誕生する以前は、税は、貨幣ではなく現物のお米で徴収されていました。
米は日本の経済の中心的な存在であり、他の農作物とは一線を画す、特別なものでした。 

米作りからはじまった日本の国

貯蔵性がよく、味にも優れた稲という作物を手に入れたおかげで、私たちの先祖は食糧を探す苦労から解放されました。生活に余裕ができたことで人口が増え、たちまち集落は拡大しました。そして、クニができ、大和王国が誕生します。日本は米作りからはじまったといっても過言ではないのです。 

食糧だけではない「お米」の役割

実はお米は、食糧以外の役割も担っていました。 
それは通貨です。奈良時代、都の経済を支えたものはお米でした。稲作は国家の財政を賄う重要な産業になりました。農民は自分たちの耕す農地の領主に対し、税金として米を納めます。この制度は、明治時代の地租改正によって撤廃されるまでの約1200年間、日本社会で継続されました。

お米にまつわる季節の行事

お米は、政治経済だけでなく、文化や信仰にも大きな影響を与えました。お正月やそのほかの年中行事、祭りの多くは、稲作の農耕儀礼がはじまりとされています。全国のお祭りの多くは、田の神に向けての豊作祈願または収穫感謝のためだと考えられています。
つまり、私たち日本人は、稲の成長と米の実りのサイクルに、祈りと感謝を捧げる歴史を重ねてきたのです。お米に対する感謝の気持ちは、我々日本人が生活を営む上で当然の心持ち、欠かすことのできないものだといえます。

▽さまざまな年中行事

1月七草粥、鏡開き(鏡餅)
2月節分の恵方巻
5月端午の節句(柏餅やちまき)
9月十五夜の月見団子
11月新嘗祭

※新嘗祭(にいなめさい)
秋に収穫された穀物を備えて神様を祭る儀礼。その歴史は古く、飛鳥時代から始まったといわれています。毎年11月23日(勤労感謝の日)に天皇が行う大切な祭儀です。

日本独特のお米文化

白飯をそのまま食べるのは日本だけ!? 

実は、日本のように水だけで炊飯する国は少なく、海外ではお米にスープやソース、スパイスや油を入れて調理するのが主流。たとえ水だけで調理した白飯でも、日本のようにおかずと白飯を別々に食べる国は極めて珍しいといわれています。

日本人の特徴的な食べ方「口中調味」 

ごはんやおかずを交互に食べて噛みながら口の中で味を混ぜ合わせる方法を口中調味といいます。例えば、ごはんと焼き魚を一口食べた後、ごはんと煮物の一口に切り替わり、次に汁物と合わせて味わう、といった食べ方です。味付けがされていない白飯の食べ方として、ごく当たり前なものです。 
フレンチのコース料理では、一皿を食べ終えたら次の一皿というように食事が進んでいきますよね。一つのお盆に「白ご飯、お味噌汁、主菜、副菜」がのった日本の一汁三菜スタイルだからこそ、できる食べ方だといえます。

日本人のソウルフード、おにぎり

冷たくなった状態でも美味しく食べられるおにぎり。コンビニやスーパーなどで手軽に買えて日本では非常にポピュラーな食べ物ですが、海外では冷めたごはんを嫌厭する国もあるのです。 

世界で食べられているお米は大きく分けて3種類。日本で主に食されている「ジャポニカ米」、世界で生産量が最も多い「インディカ米(タイ米)」、中南米やアジアの熱帯などごく一部で栽培されている「ジャバニカ米」です。パラパラとした「インディカ米」に比べて「ジャポニカ米」は粘り気があるため、おにぎりに適しているのです。 
おにぎりの歴史は古く、平安時代にまでさかのぼります。もち米を蒸して固めた屯食(とんじき)が原形だといわれています。江戸時代にのりの養殖が始まったころから、固めたご飯にのりを巻くようになり、今のおにぎりの形が出来上がったとされています。 

現代人がお米を食べない理由

私たちが生まれるずっと前から、お米は国の経済、文化、生活において重要な役割を果たしてきました。
では実際、みなさんの中で、1日3回毎食お米を食べるという方はどのぐらいいるでしょうか?
日本人の主食といえばの「お米」ですが、国民1人あたりのコメの消費量は年々減少の推移をたどっています。 国民1人が1年間に食べているお米は、1982年の118.3kgをピークに、現在2022年ではおよそ半分の50.7kgまで落ち込んでいます。
お米の消費量が減少している背景には、食生活の多様化、少子高齢化、世帯構造の変化などさまざまな要因が考えられますが、一つは経済成長にともない、私たちの食事の質が大きく変化したことがいえます。お米をお腹いっぱい食べ、より食欲を増進させるためのおかずを少し、という主食中心の伝統的な食事パターンから、おかずをしっかりと味わい、沢山食べる食事パターンに変化したのです。 

お米を食べて健康に

お米に含まれる栄養素

昨今は糖質制限ダイエットが話題に。ご飯=「太る」「食べない方がよい」というイメージがあるかもしれません。 
しかし、白米そのものにも豊富な栄養素が含まれているんです。

ごはん(精白米)1杯分(150g)の栄養価

栄養成分含有量主な働き
エネルギー234kcal
炭水化物55.7g脳や体のエネルギー源
たんぱく質3.8g血や肉、細胞など体の基本を作る
脂質0.5g体のエネルギー源
ビタミンB10.03mg体の調子を整え、夏バテを防止
ビタミンB20.02mg体の調子を整え、美肌を作る
カルシウム5mg骨や歯を丈夫にする
0.2mg酸素を全身に運ぶ、不足すると貧血に
マグネシウム11mg骨の重要な構成成分
亜鉛0.9mg細胞の形成や味を感じる味蕾の形成を助ける
食物繊維2.3g便秘やガンなどを防ぐ

参考:日本食品標準成分表2020年版(八訂) (mext.go.jp)

また、「ご飯」を主食に、大豆や野菜、魚などを組み合わせた本来の日本型食生活は、タンパク質、脂質、炭水化物のバランスが良く、理想的だといわれています。

現代人に不足しがちな3つの栄養素

食物繊維野菜やキノコ類
マグネシウム大豆や海藻類
オメガ3脂肪酸魚介類

「ご飯」は、我々の体に必要な栄養素を含むさまざまな食材との相性がよく、食べ合わせと栄養バランスの双方の面で、優れた主食だということが分かります。

腸内環境改善のキーワード”レジスタントスターチ”

お米に含まれるデンプン成分の“レジスタントスターチ”
小腸で分解、吸収されにくく大腸までしっかりと届くという特徴があるため、食物繊維と同じように腸内環境を整える効果があることが近年の研究により明らかにされています。
また、食物繊維やレジスタントスターチは、身体に脂肪を溜め込むのを抑制してくれる「短鎖脂肪酸」を作り出す腸内細菌のエサになります。お通じのお悩みや体型が気になる方にとって、非常に有益な働きをしてくれます。

冷やご飯のすすめ

実は、ご飯を冷ますことによって、炊き立てのご飯よりもレジスタントスターチが増えることが分かっているんです。冷めた状態で食べられるおにぎりなんかもおすすめです。
レジスタントスターチを上手く摂取するポイントは、再加熱しないこと!
とはいえ、「冷えたご飯はちょっと苦手。。。」という方もいらっしゃるはずです。冷やご飯の上から温かい汁物をかけて食べるのはOK!出汁やお茶をかけてお茶漬けにしたり、カレーやシチューで試してみてください。

まとめ

私たちの生活には欠かせない「お米」。 
この記事を書くにあたり、私自身も今まで知らなかった事実に触れることができました。 それは当たり前な存在だからこそ、疑問を感じなかったり、これまで深く考える機会がなかったからでしょう。 
日本人の主食となるまでにどのような経緯を辿ってきたのか、その歴史や文化的な背景、食材としてのお米の魅力について知ると、今までとは見方が少し変わりませんか? お米にまつわる日本独自の食文化、伝統はこれからも受け継がれていきます。 健やかな毎日を送るために、「お米」は私たちの力となってくれます。 
世界に誇れる「和食文化」を担う者として、そのありがたみを感じながら美味しくいただいていきたいですね。 

参考資料

・橋本直樹 食卓の日本史―和食文化の伝統と革新― 勉誠出版株式会 2015/12/15
・石毛直道 日本の食文化史ー旧石器時代から現代までー 岩波書店 2015/11/27
米をめぐる参考資料:農林水産省 (maff.go.jp)

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