こんにちは。
この記事では、前回・前々回と快適で健康的な生活に欠かせない私たちの身体と「消化」のかかわりについてご紹介してきました。前回は「消化」をつかさどる自律神経の基礎知識を元に、自律神経が乱れる原因や、どのように改善できるのかを、呼吸に注目して考えました。
【前回記事】「整う腸活」ヨガのメソッドで自律神経の働きを味方に
さて、今回も暮らしの中で点検できる胃腸の不調、そしてその解決法を日常生活の中から探っていきます。
腸の不調は暮らしを見直すサインです
私たちの身体は生命活動を維持するために、それぞれの臓器や神経系が複雑に、そして無数に影響し合っています。どこかで不調が発生した場合、レスキュー隊のように他の臓器が役割分担をしバランスを保とうとするというのが私たちの身体に備わっている基本的な仕組みです。
そこで、今回は睡眠の質の向上が、胃腸にどのような影響を与えるのかを探りながら、具体的に睡眠の質を上げる習慣をご紹介しながら、過敏性腸症候群(IBS)の治療法としても有用とされる睡眠の効果についてみていきましょう。
まずは過敏性腸症候群(IBS)について、これから紹介するものに近い症状や不調を感じる方も、発症する前に生活習慣を改善することで、予防することができるかもしれません。
また、現在はっきりとした自覚症状がある方は医療機関の受診も検討してみてくださいね。
過敏性腸症候群(IBS)の症状改善はストレスとの向き合い方が鍵
慢性的な胃腸や消化に関する不調が続く過敏性腸症候群(IBS)は、近年症状を感じる人の数が増えてきている胃腸障害の一つ。
症状としては、下痢、腹痛、けいれん、満腹感、過剰なガスといったものがあげられます。ポイントは、消化器官に該当する大腸や小腸に潰瘍や腫瘍と言った器官の異常がなくても、上記の症状が発生しているということ。
つまり、健康診断や内視鏡検査では直接の原因が判明しないのにもかかわらず、消化機能に問題が発生している状態なのです。
これを読んでいるあなたも、もしかしたら心当たりがあるかもしれません。
症状の多くは複数発生し、慢性化しやすいのが特徴です。「なんとなくお腹の調子が良くない」という状態が長く続くことで、大腸ポリープなど重症化する可能性や、日常的にストレスが溜まることで、メンタルヘルスの面でも重大な疾患につながるケースもあり、「なんとなく」で見逃すのは少し怖い不調なのです。
大切にしたい不調との向き合い方のポイント
過敏性腸症候群の主な原因の多くは、身体的あるいは精神的なストレスが大きく影響しているのが他の消化器系の疾患とは大きく異なる点です。
生活習慣の乱れや生まれつきの体質により、腸が外界の刺激に対し敏感になったところに、さらにストレスがかかることで腸が身体を守ろうとして、異常な運動をし始めてしまうのです。
その結果、身体は過剰に腸を動かしてしまったり、ゆるませることができなくなってしまい常に緊張状態に。
さらに内臓の異常を感知した脳や他の機能も過剰に動いてしまい、慢性的に不調が起こるというメカニズムになっていて、医療の現場でも「完治」という状態が明確には無い疾患になるそうです。
しかし、適切な治療を受けることはもちろんですが、日常生活を工夫することで症状を抑えることができるものでもあるのです。
セルフケアとしての瞑想
日々見えないところで頑張っている私たちの身体は、どんなに対策を万全にしていてもどうしようもない不調が起こってしまうことも。突然の身体の変化も対処法を準備していたり、原因やメカニズムが分かっていれば、少しだけ前向きに向き合うことができますよね。
過敏性腸症候群の症状は、一般的に「こころ」と「からだ」の治療が必要とされており、不安感やプレッシャーといったストレスをカウンセリングやセラピー、セルフケアといった方法で取り除きながら、必要に応じて投薬をしていくというものが主流です。
ここでは、セルフケアの視点から今日からできるストレスを軽減する睡眠習慣について、瞑想を用いた方法をご紹介します。
瞑想は座る以外にも
「瞑想」と聞くとどんなイメージを持つでしょうか?修行のようなじっと静かに耐えるもの、というイメージは最近の、「マインドフルネス」といった言葉で日常生活に取り入れることができるものというイメージに少しずつ変わりつつあるのではないでしょうか。
イベントや各種サービス、関連書籍も目にする機会が増えましたので、マインドフルネスとは最近できたような言葉に思えますが、実は長い歴史を持つものなのです。
瞑想を古くから実践している東洋圏では「今ここに意識を集中させる」というマインドフルネスの実践を3000年も前から行っていたとか。
自然災害や戦争といった世の中が混乱に陥った時代も、途切れることなく現代の私達にまで受け継がれている、自己コントロールの方法は過去の人々からの贈り物の様ですね。
今では座って行うものでも、座り方にバリエーションができたり、体を横にしながら楽な姿勢で行うものも主流になってきました。
特に寝ながら行う瞑想は脳のアイドリング状態を抑制し、深いリラックス効果を得られるとして脳科学の分野からも注目を集めています。
ぼーっとしていても脳は常にアイドリング状態
リラックスしているときといえば、「何も考えず、ぼーっとぼんやりする」状態というのを漠然と想像してしまいますが、最近の研究ではこのぼーっとしているときにこそ脳の疲労が蓄積されているといるということが明らかになってきました。
ぼーっとしているときに活発に動くDMNと呼ばれる脳の部分があるというのです。
DMNとはデフォルト・モード・ネットワークの略称で、危険を察知したときに、すぐ脳を活性化させ私達の生命がおびやかされないようにするための安全装置的な役割も担っているなくてはならない機能なのですが、このDMNが活性化しすぎてしまうと何もしていないのに疲れやストレスが抜けず、自律神経系の不調を併発してしまうことがあるのです。
これにより、睡眠障害や消化不良といった不調が連鎖的に起こってしまう場合も。
瞑想がDMNをコントロールする鍵に
DMNが活性化するとされる、ぼんやりしているときには、過去や未来に対する後悔や不安、なにか解決しなければいけない問題があるように感じ始めてしまったり、連鎖的に辛いことが次々と浮かんできてしまうことがあります。
この現象によって、脳が自分で強いストレスを生み出し、それをまた受け取ってしまい疲れがいつまでも抜けなかったり、記憶障害や精神疾患を発症してしまうことも。
そのDMNの過剰な活動により発生してしまう漠然とした思考を、穏やかにするというのが現在注目されている瞑想の効果なのです。
瞑想では、呼吸や身体と接する床の感覚といった一点に集中する思考の整理整頓を行います。今の自分がどのような状態であるのか、混乱の中身はどのようなものなのかを、客観視することで、様々な自分の状態に気づき、それによって、ストレスの起因がなんであるかを理解し、様々なトラブルに対処することができるようになるのです。
横になる瞑想は良質な睡眠習慣にぴったり
睡眠に関する不調の多くは入眠や途中で目が醒めてしまう中途覚醒によって睡眠の質が低下することで引き起こされます。
睡眠習慣に不安を抱えている人の多くは眠る前の何もしない時間に不安な気持ちになったり、ストレスを強く感じることが多く、DMNが暴走している可能性が高いのです。
そこで、眠る前ベッドに入った状態でできる「横になる瞑想」がDMNを抑えリラックスした状態を取り戻すのに役立ちます。
呼吸を無理にコントロールせず、「今、自分の呼吸がどのような状態であるか」に集中することで自然と高ぶっている不安感や恐怖心から距離を取ることができるようになるのです。
呼吸に意識を向け続けることで漠然とさまよっていた思考が整うので、DMNの動きが落ち着き、ストレスも緩和されるということです。
こうして睡眠習慣が少しずつ整うと、睡眠習慣の不調によって引き起こされる胃腸の動きも同じように改善され、よりストレスが軽減されるという良い循環を生み出すことができるようになるので、自分にあった方法で継続できる習慣を試してみてください。
ストレスとの向き合い方は一つじゃなくていい
今回は過敏性腸症候群(IBS)の症状やその原因を探る中で、ストレスへの向き合い方として瞑想を通じたDMNとの関わりをご紹介しました。
ストレス社会と呼ばれる現代において、一つの方法だけではストレスに対処できないこともたくさんあり、ストレスを解消できない自分を責めてしまう場面も少なくないですよね。
自分の中でいくつかストレスとの向き合い方をストックしていくことも自分自身を大切にする近道です。この記事があなたの暮らしが少しだけ軽やかになる手助けになりますように。
参考資料
・多賀谷亮 『最高の脳の休息法』ダイアモンド社(2017)
・伊藤克人 『最新版 過敏性腸症候群の治し方がわかる本』 こころの健康シリーズ 主婦と生活社(2011)
・小林弘幸 三輪田理恵『なぜ、あの人はよく眠れるのか』 主婦と生活社(2022)
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